さるみブログ。

自意識の墓場。

一人旅の前にやってよかったことは、一人散歩に慣れていたことかもしれない

「今ここで右に曲がったら、後ろを歩いている人に不審者に思われるかも」
「本当は来た道を戻りたいけど、いきなり方向変えたら変な人に見られるかも」

大学1年、ひとり散歩をはじめたばかりの頃のわたしはそんなことを考えながら街を歩いていた。我ながら痛いというか、哀れと言うか。

「誰もお前のことなんて見てないよ。見てたとしても、誰もお前のことなんて覚えてないよ」と当時の自分に言ってやりたい。

いや、たぶん頭ではわかっていたけど、ぬぐいきれない自意識が云々 

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-ロイヤルパレス、ストックホルム

そもそも一人散歩を始めたのは、東京生まれのくせに浅草にも吉祥寺にも皇居にも行ったことがないとは何事かと思ったからだった。週末やバイト終わり、空コマ。暇さえあれば歩き回った。なんせ人生の夏休み。時間は腐るほどあった。

ちょっとカッコいい建物が見えたからこの駅で降りよう。
日陰が涼しそうだからこの角で曲がろう。
甘いものが食べたくなったからこのカフェに入ってみよう。

文字にしてしまえばなんでもないように見えるけど、短い時間にたくさんの決断をするのは意外と疲れるものだと知った。一人散歩は決断の訓練と言ってもいいかもしれない。

東京を縦横無尽に歩いて、自分の気の赴くままに進む。気がつけば人の目なんて全然気にならなくなって、純粋に街歩きを楽しめるようになっていた。頭の中には電車の路線図とはちがう、自分だけの東京の地図ができあがっていた。

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-ストックホルムにて

で、タイトルに戻る。

人生初の一人旅をしていてふと思ったのだ。その時、私はヨットを眺めながらサンドイッチを食べていた。美術館で思いの外長居をしてしまって、少し遅めのランチ。品のいいマダムが私に目線をやりながら目の前を通り過ぎた時、果たして5年前のわたしは見知らぬ国で人目を気にせずサンドイッチを頬張るなんてことできただろうかと想像してみた。

お土産すべてかけていい、絶対無理だ

マダムに見られる以前に、サンドイッチを食べる以前に、美術館で長居する以前に、一人で海外なんて考えもしなかっただろう。変わったな自分。

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-fuglen oslo

旅の前に、後輩に借りたオードリーの若林の『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』という本を読んだ。超簡単に要約すると、自意識過剰なひねくれ者の彼がたまたまできた休みを使ってキューバへ行き、厨二病の部分をスマートに開放しつつ、最後に灰色の街(東京)を振り返るというものだ。葉巻をくわえて写真をとったり、片言の英語で現地の人とやりあったり、楽しい旅行記だった。

一人散歩はできても、相も変わらず忌まわしき自意識にとらわれている人間が、異国へ行ったらどんな行動をとるのか、同じひねくれ者の思考回路をたどってみたかったというのが、読んだ理由のひとつ。お笑いはまったく詳しくないが、彼を結構なひねくれ者だと思っていた私には、「普段斜に構えてる人でも異国となれば変わるもんだな」と意外な姿を見れた気がした(そもそもタダのひねくれ者じゃ芸人にならないか)。

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-ニューハウン、コペンハーゲン

振り返ってみれば、今回の旅はとにかく初ものづくしだった。ひとり旅デビュー、ホステルデビューにひとり酒デビュー!!!約半月間、その日やることはすべて自分が決めた。

一人散歩に慣れていたつたない英語をあやつるのに精一杯だったおかげで、想像していたほど自意識に行動を邪魔されることはなかった。

唯一あいつ(=自意識)と戦ったのはひとり酒デビューの時。コペンはミッケラー(語呂がいい)。友人と一緒なら間違いなく一番最初に足を運んだであろうスポットだが、ひとり酒なんて家でもやったことのなかった私には、そのバーの敷居はキリマンジャロ並みに高く、登り口すら見つからないような気さえした。

どうしても決心がつかず、誰かに相談したくなってLINE電話で日本とつながる。もう3万歩近く歩いてるし、アジア人だし、なんか服装気にくわないし、行ってがっかりするかもしれないし云々… 思いつく限り行かない理由を口にしたけど、結局話をしながら足は確実にミッケラーへと向かっていた。

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高すぎるバーカウンターに精一杯の見栄をもって寄りかかり、カラカラの口で店員におすすめを聞いた。空きっ腹にアルコールが染みる... 

ビールを味わいつつ、「ミッケラーに行くこと」とセットだった「ひとり酒デビューをインスタグラムのストーリーへ投稿する」を実行に移す。自己満と自慢を兼ねて載せる予定だったが、実際はストーリー経由で友達と繋がりたかっただけ。女子1人/アジア人/旅行者etc なんだか猛烈に居心地が悪くなってきて、片道12時間以上かけてきた土地でも、結局わたしはスマホにすがりつくしかなかった。

ひとり酒デビューはわたしの勝利だが、デビュー後の行動は完全に自意識の勝利で終わった。

https://www.instagram.com/p/BZIDyKOFSVk/

-戦い...

家を長くあけると毎回思うことだが、旅はありとあらゆる職業に目を向けさせ、語学学習をがんばろうと決意させ、まあ要するに「帰りたくない。よし移住だ!」と思わせる不思議な力がある。今回の長旅でも、その"不思議な力"が全力で東京復帰を邪魔してくるであろうことは簡単に想像がついた。

少しでもその葛藤が軽く済むよう、帰りの飛行機で聞こうと決めていた歌がある。吉澤嘉代子さんの「東京絶景」だ。彼女くらい優しく東京を歌ってくれないと、外国かぶれには灰色の街はあまりに冷たい。イヤホンから伝ってくる彼女の歌声が全身に沁みていくのを感じた。

 

次回予告
だって土岐麻子はイケイケすぎる。 

https://www.instagram.com/p/BZIEdK9FCe6/

2017.08.29-09.15 北欧旅行 アート編